原発推進に舵を切った日本のエネルギー政策?
原子力資料情報室事務局長の松久保肇さんによる講演会「第7次エネルギー基本計画から紐とく日本の原子力政策」に参加しました。
東日本大震災による福島第一原発の事故を経験し、これからは脱原発に方向転換するべきだと、多くの人が考えたのではないでしょうか。ところが今年2月に第7次エネルギー基本計画が閣議決定され、日本は再び原発推進に舵を切りました。政府の原子力小委員会の委員でもある松久保さんから、日本の原発の実情やエネルギー基本計画策定の過程について伺いました。
福島第一原発の廃炉目標では2051年に完了とされています。廃炉作業で最も困難なのがデブリの取り出しです。1号機から3号機までの原子炉から溶け落ちたデブリの総量は、推定880トンです。昨年11月に初めて耳かき一杯のデブリを取り出したと話題になりました。アメリカのスリーマイル島の原発事故では、133t中132tの取り出しを5年で完了しました。1日当たりの採取量は85㎏です。福島の廃炉計画では2040年にデブリ取り出しを完了する必要があり、2025年1月から2040年末までに1日当たり160㎏以上採取することになります。到底計画通りに廃炉を完了するのは不可能です。
廃炉で発生する放射性廃棄物の量とその処分費用についても、東京電力の推計は甘いと言わざるを得ません。中間処理施設の利用期限は2045年までとなっているので、除去土壌の再生利用が始まっていますが、安全性に問題があります。8000ベクレル/㎏以下の汚染物質については、自治体の裁量に任されていて、基本的に一般廃棄物として処理可能ですから市民から見えにくくなっています。
最終処分場については、北海道の寿都町と神恵内村、佐賀県の玄海町で文献調査が実施されていますが、文献調査、概要調査、精密調査に約20年かかります。原発は計画から建設に20年、運転に40~80年、廃炉に30年を要することになります。気候変動で大きく環境が変化していく状況に対応可能な電源ではありません。
使用済み核燃料から再生利用可能なウランやプルトニウムを取り出して再処理し原発で再び利用するという「核燃料サイクル」が、青森県の六ケ所村で取り組まれてきました。巨額の費用をかけてもトラブル続きで全く実現の目途が立っていません。この間に日本の保有するプルトニウムは45.1t(2022年末)になり、これは核爆発装置約5,600発分です。
原発はCO2排出量が少ないと言われますが、原料の採掘から発電施設等の建設・燃料輸送・精製・運用保守等に消費されるすべてのエネルギーを対象とするべきです。また発電コストや建設コストが安いという主張も国際的な比較では疑問があります。
第7次エネルギー基本計画では、2040年の電源構成は再生可能エネルギー(再エネ)40~50%、原発20%、火力30~40%となっています。国際エネルギー機構の資料によると、2050年までにCO2排出量を実質ゼロにするためには、再エネを80~90%にするべきとしています。
なぜ日本はこのような計画になるのか? 松久保さんが所属する原子力小委員会は23人の委員の内60%以上が原発推進の利害関係者、原発に否定的な委員は2人だけ。2時間の委員会の中で、事務局の説明30分、各委員3~4分のコメントで75分、事務局・委員長のコメント15分で、委員間での議論はほぼなし。2時間を超える場合もあるが、熟議はなく基本的に言いっぱなしだそうです。
オーフス条約という国際条約があり、環境問題に関する情報へのアクセス、意思決定における市民参画、司法へのアクセスを保障しています。2001年に発効し、多くの国が批准していますが、日本はまだ批准していません。
台湾は今年5月に脱原発を実現しました。台湾は日本と同様に地震の多い国です。福島第一原発事故のあと、民進党政権は2017年に脱原発を定めた電気事業法改正案を制定、2025年の脱原発をめざし、天然ガス50%、石炭30%、再エネ20%と目標を掲げました。
改めて政治の役割は大きいと思います。台湾も一時期電力不足になったことがあったようですが、明確な理念と目標を示すことで困難を克服する工夫、技術革新も生み出されます。参院選、横浜市長選と選挙が続きますが、エネルギー政策を判断基準のひとつとして選考したいと思います。