自家採種、農薬・化学肥料不使用の稲作の取り組み

宮城県登米市で農薬・化学肥料を一切使わず、水田で生き物たちが生き生き成長できる環境を作り、自然の生態系を壊さない稲作をしている千葉さんにお話を伺いました。

千葉さんは種子を自家採種しています。無農薬で育てた種など売っていないので、稲刈りのときに次年度の種子を採種・確保しておきます。ネオニコチノイド系農薬などの殺菌剤や化学肥料を使わない育苗は、通常であれば病原菌や栄養不足などにより枯れてしまったりします。しかし自家採種した種は何十年も病気から生き残った「精鋭部隊」で、きちんと管理していれば、害虫や病原菌などの発生を抑えることができます。

千葉さんの苗、通常の苗より根が長い

千葉さんは、抗生物質を摂取した家畜がいるかも知れないので牛・豚・鳥の堆肥は使いません。魚のエキスと米糠のみで作られた有機質堆肥を「ぱらぱら」と投入するだけです。微生物が増え、それが死骸となって新たな微生物のエサになります。それを食べる生き物(虫たち)が自然と集まり、いろいろな虫たちがいる田んぼには鳥たちも集まってきます。生物が多様化し、豊かな自然環境が稲を成長させてくれます。

一番大変なのが除草です。手押し除草機を使い、5月から6月まで田んぼの中を走ったり歩いたりしながら、できるだけ楽しいことを考えながら裸足に海パンで作業します。

通常は稲首が黄色になってから稲刈りをしますが、千葉さんは葉・茎・稲首がしっかり生きている状態(緑色)で刈り取ります。未熟なお米が多いため収穫量は減りますが、「活き青(大きい青米)」は栄養価が高いので、この時期に刈り取りをしています。GABA(リラックス成分)が発芽玄米の2倍、胚芽量が2倍以上だそうです。

千葉さんは田んぼを見ただけで、農薬や肥料に何を使っているか分かるそうです。「自然界の生態系をくずさないように環境を維持・管理する」という明確な理念に基づいて、自分で考え工夫することが楽しいとおっしゃっていました。田んぼはごく浅くしか耕しません。田植えの後すぐには水を入れません。

千葉さんの田んぼは、新しいもので5年、最も長い期間では40年「農薬・化学肥料不使用栽培」です。祖父の代から三代に渡って大切に守ってきました。アイガモ農法や米ぬか除草など、いろいろな農法を試して分かったことは、必要以上のことをしないということだそうです。

「JAS有機」の認証のためには結構お金がかかり、価格に上乗せすることになるので取得していません。従って「有機・オーガニック」とは表示できません、県の認証を取得し、独自のルールをつくっています。「農薬・化学肥料不使用」「不使用期間3年以上」「堆肥(牛・豚・鳥)の不使用」です。パンフレットにはスタッフとして、ミジンコ、イナゴ、赤トンボ、ドジョウ、アマガエル、オタマジャクシ、白鷺、ツバメ、ヌマエビ、イトミミズ、アメリカザリガニ、メダカ、タニシなどが紹介されています。

千葉さんの最近の懸念は、「放射線育種米」だそうです。調べてみると、放射線育種は人間の致死量を超える放射線を照射して突然変異を引き起こさせて新品種をつくる手法です。遺伝子組み換えは本来存在しない遺伝子を組み入れるものですが、放射線育種は自然界でも起きる突然変異を、放射線の照射で自然界の1000倍以上の発現率で引き起こすというものです。1950年代からある技術のようですが、これを米の栽培に普及させようという動きがあります。秋田県議会は昨年2月に県の主力品種である「あきたこまち」を2025年から放射線育種米「あきたこまちR」に全量切り替えていく方針を発表しました。千葉さんのように自家採種している農家はほとんどありませんから、この種を買うしかないことになります。表示義務はないので、私たち消費者は知るすべがありません。

カドミウム汚染は鉱山周辺などに高汚染地域がありますが、これまでは土壌改良などの手法で汚染削減の成果を上げてきました。放射線照射でカドミウムをほとんど吸収しない品種に改良するということですが、そもそもカドミウムを吸収しないので、汚染は土壌に残ったままです。放射線照射はカドミウムの吸収を防ぐだけでなく、稲の成長に必要なマンガンも吸収しにくくなることが分かっています。さらに他の物質への影響も懸念されます。今後の動きに注視していきたいと思います。