介護保険が危ない! 制度の「過去」「現在」「未来」を考える
生活クラブ運動グループ世田谷地域協議会主催の介護保険制度学習会にオンライン参加しました。講師は朝日新聞女性初の論説委員、国際医療福祉大学大学院教授、「世田谷認知症希望条例」策定委員長の大熊由紀子さんです。
日本の介護保険制度は2000年から施行されて25年になりますが、大熊さんは40年前から日本の高齢者福祉政策に疑問を持ち、デンマークなどの先進的な取り組みに学びながら提言してきました。寝たきり老人や認知症患者が増えるという予測のもと、当時の政府は老人病院の不足、医療・福祉費用の増大に危機感を抱き、家族介護を中心にした高齢者政策を示しました。長男の嫁が介護を担い、小姑が遺産相続することに何の疑問も持たない男性の学者、政治家、行政官がつくった日本型福祉です。これに異議を唱えた女性たちが立ち上がり、各地で「高齢社会をよくする会」が発足しました。高齢者福祉の先進国には「寝たきり老人」という言葉はありません。「老人病院」もなく、ケア付きの共同住宅という生活の場です。認知症は高齢になれば誰にでも起こり得る症状です。サッチャー元英国首相もレーガン元大統領も晩年は認知症になりました。本人の意思を尊重し適切な介護があれば、住み慣れた環境で暮らし続けることができます。しかし、日本では精神病院への入院が進められます。日本の精神病院の入院患者数は世界的に突出しています。
1985年に大熊さんが朝日新聞の社説で日本の高齢者福祉を批判し、北欧の先進事例を紹介したところ、猛烈な反発の声が上がりました。福祉にお金をかければ経済が傾くなど、今もこのような意見は根強く存在しています。政府は日本の高齢社会の実態に対して、ホームヘルパー10万人計画や寝たきり老人ゼロ作戦などを出しますが、問題解決にはほど遠く、1994年に高齢者介護自立支援システム研究会を発足し、1997年自さ社連立政権のもとで介護保険制度が成立することになります。
2000年に介護保険制度がスタートしましたが、介護者の報酬は他の業種に比べて低く設定されました。これは介護は家庭内の女性の役割であるという認識が根っこにあるからです。2024年の改正で介護報酬は全体としては若干上がりましたが、訪問介護の報酬は下げられました。その結果、介護事業者の倒産が増加しています。特に小規模事業者は大変厳しい状況です。ヘルパー不足は深刻で地域福祉の崩壊を招きかねません。今後も見直しや改定で「介護の社会化」という当初の理念からかけ離れていくことが危惧されます。
各国の高齢化率と消費税率を見ると、日本は高齢化率が世界一高いにも関わらず、消費税率はかなり低いという状況です。今の物価高で増税は困難ですが、北欧のように教育・医療・介護が公的に保障されれば、高い税負担も納得できると思います。そのためには税の使い方を決める政治への信頼が必須です。